優しさって魔法のことでしょ?
優しさは、このリアルな時代に、人間が唯一使える魔法なんだと思う。
ということに、気づいてしまった。
昨日まで、僕は優しさのことなんて、ちっともスゴイと思ってなかった。
なんていうか、優しさなんて、ある意味、人として当然のマナーだったり、
もっといえば、なんかちょっと胡散臭くさえあるような、
それでいて、どこかインパクトに欠けるというか、
どこも褒めるとこのない人に、とって付けてしまえるような、
そんな取るに足らないものだと思ってた。マクドナルドのスマイル0円的な。
ところが、僕は、昨日色んな人に色んな形で優しくされてしまった。
というのも、僕が突然、電車というアウェーで気分が悪くなるというような、
ありがちな、それでいて、実際にはそれ程ないがちな、そんな舞台に躍り出てしまったわけで、
そして、僕は色んな人に、優しくされてしまった。
まず、もう、すごい気分が悪くて、吊革につかまってんのがやっとみたいな状況になったとき、
一人目の優しい人が、席を譲ってくれたわけだ。
終電間際で、みんな疲れていて、絶対立っていたくないであろう、そんな状況で、この優しさ。
優しさの不思議なところは、それを使うことによって、得をしない、ある意味、損すらする。っていうことだ。
なのに、生まれる。
どっからともなく、優しさを操る人が現れる。
僕は、まあ、優しくされて、ゼロの状態から座席を突然、手に入れた。
で、座ってたんだけど、もう気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて、吐いた。
ちょっとではあったけど。
半径15センチくらい。
でも、もう大抵の人は普通の人間だから、わーって蜘蛛の子散らしたように、避けていくんだけど、
正直、気持ちわかる。僕だったら、ほんと舌打ちとかしてしまっててもおかしくない。
そんな中にも魔法が使える人がいて、
僕にハンカチを差し出したりしてくれるわけで。
すごい、二人目の魔法使い!って思ってたら、
いや、実際、いっぱいいっぱいで、そんなこと思ってなかったけど、
したら、今度は別の人からティッシュまでもらったりして、
つーか、横に座ってたオッサンなんか、俺の背中をさすってくれたりして、
もーどこの魔法の国だよ、ここ。
で、一回吐いたあとも、やっぱすげー気持ち悪くて、
フラフラと次の駅で降りたら、びっくりすることに倒れたみたいで、
したら、これまた全然知らない高校生くらいの若いお兄ちゃんたちが、何人かで肩を貸してくれて、
もうね、そんな若くして、魔法使えるの?って思って、
で、運ばれた救護室みたいなとこでは、駅員のオジサンに毛布みたいのかけてもらって、
もー、ディズニーランドよりマジカル。
んで、うろ覚えのうちに、実家の電話番号を僕は言ったようで、
というか、しばらく帰ってもないのに言えたようで、
父親が血相変えて迎えにきてくれた。
ああ、こんな身近にも魔法を使える人間がいたのか、と。
で、久しぶりの実家で、母親や、弟たちにまで、さんざん看病してもらって、
なんつー魔法使い一家と思いながら、
寝て、起きて、今、これを書いている。
あと、仕事鞄が何だか出っ張ってるので、覗いてみたら、自分の買った覚えのないエビアンまで入ってた。
そういえば、倒れた時、誰かが「水飲め」みたいなこと言ってたなと。
僕はうろ覚えで「吐きそうで飲めない」と言った気がする。
僕はそんな名も知らない人が、すばやく自販機で、名も知らぬ僕のために水を買ってくる様子を想像して、
涙が出た。今頃。どうか、お名前だけでも。
僕は、昨日見た魔法使いたちを全然知らない。
運んでくれた若いお兄ちゃんたちに「ほんと、こんな親切にしていただいて」みたいなこと、
とぎれとぎれに言ったら、「いやー、人として当然でしょ」的なことを言われたけど、
もーね、人じゃないから!と言いたい。
君たちは魔法使いなんだよ!魔法を使ったんだよ!と教えてあげたい。
それに引き換え、僕の魔力はどうだろう。
僕のMP、よく見たらめり込んでないか?
ああ、僕も魔法使いになりたい。
魔法使いになって、魔法を使いたい。
傘を貸してあげたい。
「132ページの4行目からだよ」って教えてあげたい。
ここは俺に任せて、おまえは先を急げ!って言いたい。
席があったら譲りたい。
捨て猫がいたら拾いたい。
魔法使いになりたい。